菊池 寛
勲章を貰う話
一
春が来た。欧州戦争第二年目の春が来た。すべてのものを破壊し、多くの人類を殺傷している戦争も、春が蘇ってくるのだけは、どうすることもできなかった。
戦争の荒し壊す力よりも、もっと大きい力が、砲弾に砕かれた塹壕の、ベトンとベトンの割れ目から緑の芳草となって萌え始めた。砲弾に頂を削り去られた樺の木にも、下枝いっぱいに瑞々しい若芽が、芽ぐんできた。
冬の間、塹壕の戦士たちの退屈な心を腐らせた陰鬱な空の色が、日に日に快活な薄緑の色に変っていった。
菊池 寛
一
春が来た。欧州戦争第二年目の春が来た。すべてのものを破壊し、多くの人類を殺傷している戦争も、春が蘇ってくるのだけは、どうすることもできなかった。
戦争の荒し壊す力よりも、もっと大きい力が、砲弾に砕かれた塹壕の、ベトンとベトンの割れ目から緑の芳草となって萌え始めた。砲弾に頂を削り去られた樺の木にも、下枝いっぱいに瑞々しい若芽が、芽ぐんできた。
冬の間、塹壕の戦士たちの退屈な心を腐らせた陰鬱な空の色が、日に日に快活な薄緑の色に変っていった。