田山 花袋・田山 録弥

ある日の印旛沼

私達は茣蓙を持つたり、煙草盆を持つたり、茶器を携へたりして、午前の日影のをりをり晴れやかに照りわたる間を土手の方へと行つた。水田の中では水鶏の声が頻りにきこえた。

『コ、コ、ココ、コ、コ』

いかにも水に近い感じであつた。沼はまだそれと見えてはゐなかつたけれども、あたりの地形から押し、土手のさまから押して、それの近いのが私にもそれと知れた。私達はまだいくらか朝露の残つてゐる田の畔の草の中を縫ふやうにしたり、また時には田から田へと流れ落ちる小さな水を跨いだりして、漸くその大きな、夏草の一面に繁つた土手へと達した。

『ほ!』

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