田山 花袋・田山 録弥
犬
「馬鹿に鳴くね。大きな犬らしいね」Bを見送りに来たMが言ふと、すぐ傍の籐椅子に腰をかけてゐたT氏は、
「H領事の犬だらう? 先生方も今日立つ筈だからね」
その犬の悲鳴する声は、甲板の下のハツチのあたりから絶えずきこえて来た。小さな箱の中に入れられて、鉄の棒の間から鼻を出したり口を出したりして、頻りに心細がつて鳴いてゐるのであつた。
「Hさん、何処に行くんですか?」
田山 花袋・田山 録弥
「馬鹿に鳴くね。大きな犬らしいね」Bを見送りに来たMが言ふと、すぐ傍の籐椅子に腰をかけてゐたT氏は、
「H領事の犬だらう? 先生方も今日立つ筈だからね」
その犬の悲鳴する声は、甲板の下のハツチのあたりから絶えずきこえて来た。小さな箱の中に入れられて、鉄の棒の間から鼻を出したり口を出したりして、頻りに心細がつて鳴いてゐるのであつた。
「Hさん、何処に行くんですか?」