田山 花袋・田山 録弥

間居

自他の問題

労資問題も自他の問題である。細かい心の問題である。千古常に解決に苦しんでゐる問題である。そしてこれが物質的解決に近づいて行けば行くほど、問題は明快になつて行くけれども、同時に、自他の間を滑かに廻転させて行つてゐる熱のやうなものが次第に冷めたくなつて行く恐れがある。一体、労資に限らず、心の問題は細かいものである。矛盾に富んだものである。時には感情に、また時には意志に支配され勝ちなものである。それを、きつぱりと抽象的な思想で解決しようと言つても、それはちよつと難かしい註文だと私は思つた。

所謂社会

『個』と言へば個人、『全』と言へば社会、唯、かう簡単に考へてゐる人が多い。それではとても私の言つたことがわかりやう筈がない。私の意見では、『個』の中に『全』があるのである。『全』の中に『個』があるのである。そして所謂社会といふことは、その『個』の表面的、または部分的集合にすぎないものを指してゐるのである。

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