田山 花袋・田山 録弥

黒猫

この作は非常に面白い。しかし何故面白いのか。何故かう心を惹くのか。さう思つて考へて見ても、何うしてもその理由がわからないやうな場合がよくある。例の芭蕉の『昼見れば首筋赤きほたるかな』などもその一つである。非常に面白いけれど、その面白い理由が、説明しようとしても容易に出来ない。(不思議なもんだなア、芸術は?)かう私は思はずにはゐられなかつた。

『かへつて、説明出来ないやうな芸術の方が、本当なんぢやないんでせうか。すぐ見透かされないやうなのが好いんぢやないんでせうか』

かうある人は私に言つた。

『さア、さうはつきり言つて了つて好いか何うかわかりませんけれど――』

青空文庫の作品カード