田山 花袋・田山 録弥
小説新論
一 読書と実生活
若い人達の為めに、小説を書くに就いて、私の経験した作法見たいなものを書いて見る。
長年私は投書を見て来てゐるので、諸君が何ういふ作をするか、何ういふ風に小説といふものを考へてゐるか、また何ういふ風に無益の努力をやつてゐるかといふことを知つてゐる。私の見たところでは、諸君の小説を書く態度は浮気である。移気である。ちょいと[#「ちょいと」はママ]面白いから書いて見る位のところである。そして二三度やつて見て、旨く行かないと、すぐやめて了ふ。
小説は書簡文とか、叙述文とか、実用文とか言ふものゝやうに、この世の中を渡るために必要上勉強し修業するものではない。また小説は学者のやる学問見たいなものではない。この世の中の直接実用には何等の交渉がない。従つて小説と言ふものは総ての学術と言ふものからは全く独立してゐる。それだけ天地が広く茫漠としてちよつとつかみにくいやうなものである。又それだけうはの空では出来ないものである。一生の精神と努力とを籠めても、それでも出来るか何うかわからぬものである。