田山 花袋・田山 録弥

旅から帰つて

私達の思つたり、考へたり、行つたりする一段上に本当の生活があるやうな気がする。そしてその生活は、今私達がやつてゐるやうな、そんな喧しい、または利害一遍な、何うしても自分達の欲するまゝを通さずには置かないといふやうなものではなくて、もつと自然な、静かな、平和なものに近いやうに私には思はれた。

戦闘と言ふことが高調せられたり、征服被征服といふ字が用ゐられたりするといふことは、余り好ましいことではないと私は思ふ。何故なら、戦闘で勝利を得るといふことが決してすべてを解決したことではないからである。また征服被征服といふやうな心境では、到底人間の魂まで入つて行くことは出来ないからである。この世の中では、征服したものゝ方が本当の勝者か、それとも征服されたものゝ方が本当の勝者か、ちよつとわからないやうなことがよくあるものである。私の考へでは、さうした思想よりも、人間は次第に無抵抗主義の方に一歩々々入つて行く傾向を持つやうになつて行かなければならないものだと思ふ。

矢張、主観だけでは駄目だ。主観が客観的価値を持つやうにならなければ――。

果実はその熟する少し前に於て、落ちたり腐つたりすることが非常に多い。十中五六は駄目になつて了ふ。これに由つて見ても、人間が一生を健かに送るといふことは、容易なことではないやうな気がする。

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