薄田 泣菫

茶立虫

静かな秋の一日、午後三時頃の事でした。家の者はみな遊びに出かけたので、留守居に残された私は部屋に坐つたまま、背を壁にもたせて、何を考へるでもなし、ひとりつくねんとしてゐました。煤けた壁の落ちつきが、冷え冷えと背を伝はつて、しつとりと心の底まで滲みとほるのもいい気持でした。

先き方まで、土間のどこかで懶さうに鳴いてゐた蟋蟀も、いつのまにか鳴き止んで、あたりはひつそりとしてゐました。

ふと気がつくと、すぐ側にたてかけた障子のなかから、微かな物音が伝はつて来ます。

「と、と、と、と、と、……」

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