田山 花袋・田山 録弥

批評的精神を難ず

批評的精神

批評的精神とか、自己を深く見詰めるとか言ふことも、人間としては決して第一義的ではない。無論さうしたことも人間には必要なことであり、なくてならないことであり、ある時期には人間の修養上、研究上、または自然に促された要求として、さういふ種類の心持をかなりに多く持つものであるが、しかしそれは決して全身的または根本的ではない。もしそれが総てゞあるやうになれば、その人は必ず行詰つて了ふ。平凡で、単調で、終には何うにもかうにもならなくなるやうに疲れて了ふ。

何故かと言へば、人間はいくら見詰めたとて、いくら解剖したとて、さうした処の境地では到底深いところに入つて行くことが出来ないからである。これはあゝである、かうであると理解したところで、それは知識としてこそ役立つばかりで、第一義的には何うにもならないからである。単に批評するといふ心持では、人生もよくはわからないし、芸術もよく味ふことは出来ない。

『うん、あれはあゝなるのは当り前さ』

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