田山 花袋・田山 録弥
モウタアの輪
一
モウタアの音がけたゝましくあたりにひゞいて聞えたので、仕度をして待つてゐた二人はそのまゝ裏の石垣になつてゐるところへと出て行つた。外洋の波の高く※(「風にょう+昜」、第3水準1-94-7)つてゐるのはそれと指さゝれたけれども、港の内は静かで、昨夜遅く入つて来たらしい二本マストの小さな汽船がそこに斜に横たへられてあるのを眼にしたばかりであつた。モウタアを仕かけたその小さな伝馬は、すぐその向うのところに来てタプタプと波に浮かんでゐた。
「大丈夫?」
危むといふやうにして女は言つた。