田山 花袋・田山 録弥
談片
さうですね、避暑についての話と言つても、別に面白いこともありませんね。まア暑さを避けるのなら、何と言つても、標高の大きい山岳地方に行くに限ると思ひますね。千米突以上の山の上にゐれば、いつだつて暑いなんていふ気はしませんからね。
しかし、余り世離れては、避暑といふ目的に副はなくなるかも知れませんね。矢張、都会の人達が大勢行くやうなところでなくては面白くないんでせうからね。涼しくさへあれば好いといふんではないでせうからね。軽井沢や日光あたりが普通に持て囃される訳ですね。
しかし、段々新しい避暑地を開くことは必要だと思ひますね。今では、あの信越の境にある野尻湖なども非常に好いところになつたツて言ふぢやありませんか。何しろ、あそこは好い高原ですからね。
日光の湯本の奥から菅沼、笈沼を経て、上州の尾瀬沼に行く間なども、夏は涼しいところだと思ひますね。あそこなども今に屹度開けるだらうと思ひます。上越線の汽車が出来た暁には、決して今までのやうな少数の専門家にばかり占領されてはゐないだらうと思ひます。あそこなら蚊もゐないし、暑さも八十度以上にはのぼらないし、渓流も、湖水も、温泉もすべて揃つてゐますからね。