薄田 泣菫
飲酒家
片山国嘉博士が名代の禁酒論者であるのは知らぬ者はない。博士の説によると、不良少年、白痴、巾着切……などいふ輩は、大抵酒飲みの子に生れるもので、世間に酒が無かつたら、天国はつい手の達きさうなところまで引張り寄せる事が出来るらしい。
尤も亡くなつた上田敏博士などは、酒が肉体によくないのは判つてゐる。だが、素敵に精神の助けになるのは争はれない。自分は肉体と精神と孰方を愛するかといへば、言ふ迄もなく精神を愛するから酒は止められないと口癖のやうに言つてゐた。
その禁酒論者の片山博士の子息に、医学士の国幸氏がある。阿父さんとは打つて変つた酒飲みで、酒さへあれば、天国などは質に入れても可いといふ性で毎日浴びる程酒を飲んでは太平楽を言つてゐた。
阿父さんの博士もこれには閉口したらしかつたが、それでも、