蒲 松齢

織成

洞庭湖の中には時とすると水神があらわれて、舟を借りて遊ぶことがあった。それは空船でもあると纜がみるみるうちにひとりでに解けて、飄然として遊びにゆくのであった。その時には空中に音楽の音が聞えた。船頭達は舟の片隅にうずくまって、目をつむって聴くだけで、決して仰向いて見るようなことをしなかった。そして、舟をゆくままに任しておくと、いつの間にか遊びが畢って、舟は元の処に帰って船がかりをするのであった。

柳という秀才があって試験に落第しての帰途、舟で洞庭湖まで来たが酒に酔ったのでそのまま舟の上に寝ていた。と、笙の音が聞えて来た。船頭は水神があらわれたと思ったので、柳を揺り起そうとしたが起きなかった。船頭はしかたなしに柳をそのままにして舟の底へかくれた。

と、人が来て柳の頸筋をつかんで曳き立てようとした。柳はひどく酔っているので持ちあがらなかった。そこで手を放すとそのまままたぐったりとなって眠ってしまった。しばらくしてその柳の耳に鼓や笙の音が聞えて来た。柳はすこし眼が醒めかけたのであった。蘭麝の香が四辺に漂っているのも感じられた。柳はそっと窺いてみた。舟の中は綺麗な女ばかりで埋まっていた。柳は心のうちでただごとでないことを知った。柳は目をつむったように見せかけていた。しばらくして、

「織成、織成。」

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