芥川 竜之介

大久保湖州

或秋の夜、僕は本郷の大学前の或古本屋を覗いて見た。すると店先の陳列台に古い菊判の本が一冊、「大久保湖州著、家康と直弼、引ナシ金五十銭」と云ふ貼り札の帯をかけたまま、雑書の上に抛り出してあつた。僕はこの本の挨を払ひ、ちよつと中をひろげて見た。中は本の名の示す通り、徳川家康と井伊直弼とに関する史論を集めたものらしかつた。が偶然開いた箇所は附録に添へてある雑文だつた。「人の一生」――僕はこの雑文の一つにかう云ふ名のあるのを発見した。

人の一生

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徳川家康

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