片山 広子
二人の女歌人
小野小町は小野の篁の孫で、父は出羽守良真とも伝へられ、仁明、文徳、清和の頃の人と思はれるが、生死の年月もはつきり分らず、伝説は伝説を生み、今の私たちには彼女が美しかつたといふ事と、すぐれた歌人であつたといふことだけしか伝はらない。久しぶりにこの頃小町の歌を読みかへす機会があつたが、時代のずれといふやうなものを少しも感じないで読んだ。現代の歌は心理的にかたむいて私にはだんだんむづかしくなつて来てゐる時、むかし私が「歌」と教へられてゐたさういふ歌にまたもう一度めぐり会つたやうな感じであつた。彼女の家集の歌はさう沢山はないけれど、すこし抜いてみよう。
花の色はうつりにけりな徒らにわが身世にふるながめせしまに
山里のあれたる宿を照らしつつ幾夜へぬらむ秋の月影
思ひつつ寝ればや人の見えつらむ夢と知りせばさめざらましを