岡本 綺堂
我家の園芸
目黒へ移ってから三年目の夏が来るので、彼岸過ぎから花壇の種蒔きをはじめた。旧市外であるだけに、草花類の生育は悪くない。種をまいて相当の肥料をあたえておけば、先ず普通の花はさくので、我々のような素人でも苦労はないわけである。
そこで、毎年慾張って二十種乃至三十種の種をまいて、庭一面を藪のようにしているのであるが、それでは藪蚊の棲家を作る虞れがあるので、今年はあまり多くを蒔かないことにした。それでもへちまと百日草だけは必ず栽えようと思っている。
私はむかしの人間であるせいか、西洋種の草花はあまり好まない。チューリップ、カンナ、ダリアのたぐいも多少は栽えるが、それに広い地面を分譲しようとは思わない。日本の草花でも優しげな、なよなよしたものは面白くない。桔梗や女郎花のたぐいはあまり愛らしくない。私の最も愛するのは、へちまと百日草と薄、それに次いでは日まわりと鶏頭である。
こう列べたら、大抵の園芸家は大きな声で笑い出すであろう。岡本綺堂という奴はよくよくの素人で、とてもお話にはならないと相場を決められてしまうに相違ない。私もそれは万々承知しているが、心にもない嘘をつくわけには行かないから、正直に告白するのである。まあ、笑わないで聴いてもらいたい。