岡本 綺堂

二階から

二階からといって、眼薬をさす訳でもない。私が現在閉籠っているのは、二階の八畳と四畳の二間で、飯でも食う時のほかは滅多に下座敷などへ降りたことはない。わが家ながらあたかも間借りをしているような有様で、私の生活は殆どこの二間に限られている。で、世間を観るのでも、月を観るのでも、雪を観るのでも、花を観るのでも、すべてこの二階から観る。随って眼界は狭い。その狭い中から見出したことの二つ三つをここに書く。

一 水仙

去年の十一月に支那水仙を一鉢買った。勿論相当に水も遣る、日にも当てる。一通りの手当は尽していたのであるが、十二月になっても更に蕾を出さない。無暗に葉が伸びるばかりである。どうも望みがないらしいと思っているところへ、K君が来た。K君は園芸の心得ある人で、この水仙を見ると首を傾げた。

「君、これはどうもむずかしいよ。恐く花は持つまい。」

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