石川 啄木
弓町より
食ふべき詩(一)
詩といふものに就いて、私は随分、長い間迷うて来た。
啻に詩に就いて許りではない。私の今日迄歩いて来た路は、恰度手に持つてゐる蝋燭の蝋の見る/\減つて行くやうに、生活といふものゝ威力の為に自分の「青春」の日一日に滅されて来た路筋である。其時々々の自分を弁護する為に色々の理窟を考へ出して見ても、それが、何時でも翌る日の自分を満足させなかつた。蝋は減り尽した。火が消えた。幾十日の間、黒闇の中に体を投出してゐたやうな状態が過ぎた。やがて其暗の中に、自分の眼の暗さに慣れて来るのをじつとして待つてゐるやうな状態も過ぎた。
さうして今、全く異なつた心持から、自分の経て来た道筋を考へると、其処に色々言ひたい事があるやうに思はれる。