山本 禾太郎
仙人掌の花
(一)
閑枝は、この小さな北国の温泉町へ来てからは、夕方に湖水のほとりを歩くことが一番好きであった。
丘一つ距てた日本海に陽が落ちると、見る見るうちに湖面は黒くなって、対岸の灯が光を増すのであった。
陽が、とっぷりと暮れる。芦の葉ずれ、にぶい櫓声、柔かな砂土を踏むフェルト草履の感じ、それらのすべては、病を養う閑枝にとっては一殊淋しいものではあったが、また自分の心にピッタリと似合った好もしい淋しさでもあった。
山本 禾太郎
(一)
閑枝は、この小さな北国の温泉町へ来てからは、夕方に湖水のほとりを歩くことが一番好きであった。
丘一つ距てた日本海に陽が落ちると、見る見るうちに湖面は黒くなって、対岸の灯が光を増すのであった。
陽が、とっぷりと暮れる。芦の葉ずれ、にぶい櫓声、柔かな砂土を踏むフェルト草履の感じ、それらのすべては、病を養う閑枝にとっては一殊淋しいものではあったが、また自分の心にピッタリと似合った好もしい淋しさでもあった。