長谷川 時雨

旧聞日本橋

八月の暑い午後、九歳のあんぽんたんは古帳面屋のおきんちゃんに連れられて、附木店のおきんちゃんの叔母さんの家へいった。

附木店は浅草見附内の郡代――日本橋区馬喰町の裏と神田の柳原河原のこっちうらにあたっている。以前は、日本橋区の松島町とおなじ層の住民地で、多く願人坊主がいたのだそうだ。附木を造って売ったから附木店の名がある。だが、あたしが連れてかれた時分はそんな場処ではなかった。表通りは何処か閑散として、古鉄屋や、かもじ屋や、鍛冶屋位が目に立ったが、横町は小奇麗だった。

おきんちゃんは、一間の格子と一間の出窓をもった家の前で止まった。窓には簾があって、前に細っこい植木が二、三本植わっていた。万年青の芽分けが幾鉢も窓にならべてあって、鉢には鰻の串をさし、赤い絹糸で万年青が行儀わるく育たないように輪を廻らしてあった。格子をあけると中の間の葭屏風のかげから、

「きんぼうかい?」

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