尾崎 放哉
夜汽車
「それで貴女とう/\離婚れてしまいましたので……丁度、昨年の春の事で御座いました」
「まーとう/\。ほんまに憎らしいのは其女の奴どすえなー、妾なら死んでも其家を動いてやりや致やしませんで、」
あんまり今の女の声が高かつたので、思はずわれも其話しの方に釣り込まれた。
我は少し用事があつたので神戸の伯母さんの家へ、暑中休暇に成るとすぐから行つて居たのであつたが、つい/\長くなつたので有つた、処が此間大坂の我家から、もー学校の始まるのも近々になつたのだから早く帰れと云ふて手紙が来たので仕方がなく帰る事にした で、今朝立つと云ふ処であつたのが、馴染になつた姪や、従妹に引とめられてしまつて、汽車に乗つたのはかれこれ晩の六時すぎでもあつたであらう、夜の故か乗客は割合に少ない、今朝手紙を出して置いたから家でも待つて居るであらう、此土産を弟に出してやつた時、どんなに喜ぶであらう、などゝ考えて腰かけて居る内に今の女の大声に破られたのであつた。