神西 清
水と砂
一 山荘の夜
「此処から足許があぶなくなりますから、みなさんご用心よ。」
彼等が、小流の畔に出ると、一ばん先に進んでゐた光代がかう言ひ棄てていきなり右へ折れた。驟雨に洗はれて空気の澄みきつた七月の初夜である。見あげれば少なからぬ星影は青く燦めいてゐるのであるが、此あたり一帯にすぐ背後に山を背負つてゐるために、闇は一しほに濃い。然し幸ひなことに砂みちであるので、その仄白さと、踏めばサラサラと微かに音を立てるのとで、さう歩き難い方ではない。よそ目には不機嫌と見えようまで黙りこくつた妹娘の真弓が姉のあとから歩いてゆく。真弓のあとに宏がついて行くのである。
――そのまがり角で、