カフカ フランツ
審判
第一章 逮捕・グルゥバッハ夫人との
対話・次にビュルストナー嬢
誰かがヨーゼフ・Kを誹謗したにちがいなかった。なぜなら、何もわるいことをしなかったのに、ある朝、逮捕されたからである。彼の部屋主グルゥバッハ夫人の料理女は、毎日、朝の八時ごろに朝食を運んでくるのだったが、この日に限ってやってはこなかった。そういうことはこれまであったためしがなかった。Kはなおしばらく待ち、枕についたまま、向う側の家に住んでいる老婆がいつもとまったくちがった好奇の眼で自分を観察しているのをながめていたが、やがていぶかしくもあれば腹がすいてきもしたので、呼鈴を鳴らした。すぐにノックの音が聞え、この家についぞ見かけたことのない一人の男がはいってきた。すんなりとはしているが、頑丈な身体のつくりで、しっくりした黒服を着ていた。その服は、旅行服に似ていて、たくさんの襞やポケットや留め金やボタンがつき、バンドもついており、そのため、何の用をするのかはっきりはわからぬが、格別実用的に見受けられた。
「どなたですか?」と、Kはききただし、すぐ半分ほどベッドに身を起した。