橘 外男
亡霊怪猫屋敷
怪しき老婆
この物語は、昨年の秋の末、九州のごく西のはずれの大村という城下町の、その侍小路のふるい屋敷町におこったできごとです。
だいたいこのあたりは、そのむかし、おもだった藩士たちの屋敷跡で、むかしは裃に両刀をたばさんだ、登城すがたの侍たちの往来でにぎわっていたのでしょう。いずれも百年、二百年と年をへたむかしの屋敷ばかり……。が、いまはいたずらにおいしげったけやきやかしの老木に暗くかこまれて、だらだらとつまさきあがりの石の坂道も、あらかた朽ちさび、色あせた屋根のかわらも青苔におおわれて、昼でもキツネのなきそうにさびしいところでした。
おまけにきょうはこのさびしい屋敷町に、いっそうわびしくショボショボと、朝からしぐれがふりつづいて、暮れるに早い秋の日が、もうとっぷりと夕闇をただよわせておりました。