北大路 魯山人
一癖あるどじょう
どじょうなべ。美味くて、安くて、栄養価があって、親しみがあり、家庭でも容易にでき、万事文句なしのもの。ただし、貴族的ではない。これがどこへ行っても歓迎を受けているのは、もっともな話である。
なべものは一般に冬のものと決まっているところへ、こればかりは夏のものであることも、大方の興を呼ぼう。東京では、どじょうなべというより「柳川」というほうが通りがいい。なぜ柳川という名称が生じたか。
古老の話によると、幕末のころ、日本橋通一丁目辺に「柳川屋」という店があり、ここでかつて見たこともない「どじょうなべ」なるものを食わした。幸いそれが当たって、江戸中の評判となり、いつとはなしに、どじょうなべのことを柳川というようになった。これが柳川の名称の起こりだという。そんなところから、通人は柳川で一杯などとシャレるに至ったものらしいということだ。
また、柳川は九州柳川の換字ではないだろうか――というのもある。柳川は日本一の優良すっぽんの出るところ。一望千里の田野を縫う賽の目のような月水濠は、すっぽんとともに優良などじょうを産する。ほかでは見られないまでに、持ち味すばらしく、かつ大量に産し、現に大阪市場にまで持ち込まれている。