泉 鏡花

貧民倶楽部

六六館に開かるる婦人慈善会に臨まんとして、在原伯の夫人貞子の方は、麻布市兵衛町の館を二頭立の馬車にて乗出だせり。

いまだ額に波は寄らねども、束髪に挿頭せる花もあらなくに、青葉も過て年齢四十に近かるべし。小紋縮緬の襲着に白襟の衣紋正しく、膝の辺に手を置きて、少しく反身の態なり。

対の扮装の袖を連ねて侍女二人陪乗し、馭者台には煙突帽を戴きたる蓄髯の漢あり、晏子の馭者の揚々たるにて主公の威権想うべし。浅葱裏を端折りたる馬丁二人附随い、往来狭しと鞭を挙げぬ。

かくて狸穴の辺なる狭隘路に行懸れば、馬車の前途に当って往来の中央に、大の字に寝たる屑屋あり。担える籠は覆りて、紙屑、襤褸切、硝子の砕片など所狭く散乱して、脛は地を蹴り、手は空を掴みて、呻吟せり。

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