相馬 泰三
夢
一
そとは嵐である。高い梢で枝と枝との騒がしくかち合ふ音が聞える。ばら/\と時折り窓をかすめて落葉が飛ぶ。だが、それ等は決して、老医師の静かな物思ひのさまたげにはならなかつた。天井の高い、ガランとした広い部屋の中の空気はヒヤ/\と可成冷たかつたが、彼は大きな安楽椅子に身を深く埋めてゐたから、それも平気であつた。それに物思ひと云つても、それは彼のこれまでの忙はしい生活に附きまとうてゐた様な、そんな種類のものとは全く趣きを異にした極めて呑気な、責任などと云ふものから全く離れたものであつた。
膝の上にきちんと手を重ねて、半ば眼を閉ぢてうつら/\と取とめもなく思ひに耽つてゐるうちに急に彼の口元から頬のあたりへかけて軽い笑ひが浮んで来て、やがて眼がぱちつと開いた。そして暫時可笑しさを口の中にこらへて居たが、こらへ兼ねてとう/\噴き出して仕舞つた。
それはかうである。ついこの二週間ばかり前のはなし、自分の第三の結婚式に臨む為めに上京して、その結婚披露の饗宴の卓上での出来事、――それが、今何かの関係からふと頭の中に浮んで来たのである。