中原 中也

高橋新吉論

こんなやさしい無辜な心はまたとないのだ。

それに同情のアクチイビティが沢山ある。これは日本人には珍らしい事だ。

この人は細心だが、然し意識的な人ではない。意識的な人はかうも論理を愛する傾向を持つてゐるものではない。高橋新吉は私によれば良心による形而上学者だ。彼の意識は常に前方をみてゐるを本然とする。普通の人の意識は、何時も近い過去をみてゐるものなのだ。――

彼の魂にとつて現象は殆んど何物でもない。といつてこれは現実を無視してゐるといふのではない。寧ろ彼こそ一番現実の大事な人なのだが、蓋しそれは幻想としてだと先づ言つて置かう。――彼にとつては常に真理が必要なのだ。それが彼の良心の渇きで、云はゞ彼は自動機械的に現実を材料としての夢想家なのだ。

青空文庫の作品カード