永井 荷風

一月一日

一月一日の夜、東洋銀行米国支店の頭取某氏の社宅では、例年の通り、初春を祝ふ雑煮餅の宴会が開かれた。在留中は何れも独身の下宿住ひ、正月が来ても屠蘇一杯飲めぬ不自由に、銀行以外の紳士も多く来会して、二十人近くの大人数である。

キチーと云つて、此の社宅には頭取の三代も変つて、最う十年近く働いて居る独乙種の下女と、頭取の妻君の遠い親類だとか云ふ書生と、時には妻君御自身までが手伝つて、目の廻ふ程に急しく給仕をして居る。

『米国まで来て、此様御馳走になれやうとは、実に意外ですな。』と髯を捻つて厳めしく礼を云ふもあれば、

『奥様、此れでやツとホームシツクが直りました。』とにや/\笑ふもあり、又は、

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