永井 荷風

男ごゝろ

大方帳場の柱に掛けてある古時計であらう。間の抜けた力のない音でボンボンと鳴り出すのを聞きつけ、友田は寐てゐる夜具の中から手を伸して枕元の懐中時計を引寄せながら、

「民子さん。あれア九時でせう。まだいゝんですか。」と抱寐した女の横顔に頤を載せた。

「あら。もうそんな時間。」と言つたが、女も男と同じやうに着るものもなく寐てゐたので、夜具の上に膝を揃へて起き直りながら、

「浴衣どこへやつたらう。これぢや廊下へも憚りへも行けませんよ。」

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