島崎 藤村
死の床
「柿田さん、なんでもかんでも貴方に被入しつて頂くやうに、私が行つて院長さんに御願ひして来て進げる――左様言つて、引受けて来たんですよ。」
流行の服装をした女の裁縫師が、あの私立病院の応接間で、日頃好きな看護婦の手を執らないばかりにして言つた。
柿田は若い看護婦らしい手を揉み乍ら、
「多分行かれませう。丁度今、私も手が空いたばかし……先刻貴方から電話を掛けて下すつた時院長さんにも伺つて見たんです。病院の規則としては御断りするんだけれど、まあ他の方でないからツて、院長さんも左様仰るんですよ。」