正岡 子規

病牀苦語

○この頃は痛さで身動きも出来ず煩悶の余り精神も常に穏やかならんので、毎日二、三服の痲痺剤を飲んで、それでようよう暫時の痲痺的愉快を取って居るような次第である。考え事などは少しも出来ず、新聞をよんでも頭脳が乱れて来るという始末で、書くことは勿論しゃべることさえ順序が立たんのである。それでもだまって居るのは尚更苦しくて日の暮しようがないので、きょうは少ししゃべって見ようと思いついた。例の秩序なしであるから、そのつもりで読んで貰いたい。

○僕も昔は少し気取て居った方で、今のように意気地なしではなかった。一口にいうとやや悟って居る方だと自惚れて居た。ところが病気がだんだん劇しくなる。ただ身体が衰弱するというだけではないので、だんだんに痛みがつのって来る。背中から左の横腹や腰にかけて、あそこやここで更る更る痛んで来る事は地獄で鬼の責めを受けるように、二六時中少しの間断もない。さなくても骨ばかりの痩せた身体に終始痛みが加わるので、僅かの身動きさえならず、苦しいの苦しくないのと、そんなことをいうだけ野暮な位になって来た。始めは客のある時は客の前を憚かって僅に顔をしかめたり、僅に泣声を出す位な事であったが、後にはそれも我慢が出来なくなって来た。友達の前であろうが、知らぬ人の前であろうが、痛い時には、泣く、喚く、怒る、譫言をいう、人を怒りつける、大声あげてあんあんと泣く、したい放題のことをして最早遠慮も何もする余地がなくなって来た。サアこうなって見ると、我ながらあきれたもので、その醜体と来たらば、自分でも想像されるが、側の見る目には如何におかしいであろう。とにかく三十も越えて男一人前に髭まで生え

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