鈴木 三重吉

女の子

自分が毎日物を書く一と間の前には、老い耄けたやうな、がた/″\の黒板塀が限られてゐる。左の建物の壁の根に、三つ股になつた、ひよろ/\の低い無花果の木が、上の方に僅かの小さい若芽を附けて、置き忘れられたやうに乏しく踞まつてゐる外には、何の植つてゐるものもない。

いかにも裏町らしい、黒ずんだ土の上には、板塀の下から潜り出たどくだみの四五本が、ちよつぴりと青いものになつてゐるだけである。それも自分が制止しなかつたら、下女がこゝへ越した掃除の際に引き拔いてしまひかけるところであつた。

この小さい、申譯ばかりの庭は、臺所口から、右隣の家との壁の間を身を縮かめて通つて、出這入りするやうになつてゐる。並んだ隣の家の、同じ板塀を前にした小庭との堺には、開き戸の附いた、人の腰までしかない疎な竹垣が劃されてゐるだけで、縁側から覗けば、向うの方も見え續く。

そのとなりの庭には、開き戸の側に、南天の木の柔い葉の茂つた一と株があつて、白い粒々の花がいくつも附いてゐる。その先にはナスタシヤムの朱黄色の花が半坪ばかりに植ゑ寄せられて、ぱつと目に立つてゐる。

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