鈴木 三重吉
胡瓜の種
小さいときから自分を育てゝ來たお千は、下女と祖母とを伴れて、車に乘つて一足先に移つて出た。
自分は宿屋の拂ひをして、一二の用事に※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)つてあとから行つた。荷車に托した行李と蒲團とが已に運ばれて、上り口に積み上げてあつた。見すぼらしいがた/″\の格子戸を這入つて靴を解く。お千は下女に指圖をして、がさごそそこらを拭き※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)つてゐた。
「どうだ。掃除は片づいたか?」と言ひつゝ上ると、
「まあ隨分まごつきましたのい。いくら探してもこの家が別らないで、この邊を幾度もぐるぐる※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)つて辛との事で探し出したんですのい。」と、お千は脇を向いたまゝかう言ひながら、泥水になつたバケツの水を提げて裏口へ出る。