新渡戸 稲造

武士道の山

武士道は斜面緩かなる山なり。されど、此処彼処に往々急峻なる地隙、または峻坂なきにしも非らず。

この山は、これに住む人の種類に従って、ほぼ五帯に区分するを得べし。

その麓に蝟族する輩は、慄悍なる精神と、不紀律なる体力とを有して、獣力に誇り、軽微なる憤怒にもこれを試みんと欲する粗野漢、匹夫の徒なり。彼らはいわゆる「野猪武者」にして、戦時には軍隊の卒伍を成し、平時には社会の乱子たり。

更に歩を転ずれば、ここに他種の人の住するを見る。山麓叢林の住民よりも進歩したる一階級の民なり。彼らは獣力に荒まず。野猪の族と異りて、放肆なる残虐また悪戯を楽しみとせずといえども、なおその限られたる勢力を行わんことを喜びとなし、傲岸尊大にして、子分に対しての親分たるを好む。その最も快とするところは、自己の威信あるを感ずること、即ち人より服従せらるる事なり。最も彼れを憤懣せしむるものは、その権力の侵害せらるること、即ち抑圧を蒙ることなり。彼らは戦場に在りては勇敢なる下士となり、平時には最も厭うべき俗吏となる。

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