佐藤 垢石
アンコウの味
数日前ちょっと閑があったから、水戸の常盤公園へ観梅に出かけて行った。しかし、水戸は湘南地方と違い寒国であるから、梅のつぼみはいまなお固く、つえひく人の風情も浅かった。
けれども、ひどくおいしい料理をさかなにして一杯やってきた。その料理というのはアンコウの共酢である。あの、黄カッ色を呈したアンコウの肝を蒸してこれをスリバチですりつぶし、酢と少量の砂糖を加えてかきまぜ、これにアンコウの白肉の蒸したものを薄く切って、附けて食うのだが、これはいける。おかげさまで、まことにおいしく酒がのどへすべり込んだ。
東京近県でとれるアンコウは、肝が素晴らしく大きい上に、味がよろしいのであるが、東北方面へ行くほどその海でとれるアンコウの肝は小さく、そして味がよろしくない。そこで、くちさがない魚河岸の若い者などは、胆玉の小さい者を指して、あれは陸奥のアンコウだといったものである。
味は結構だが、形はグロの魚である。体の前面いっぱいに占める大きな口を持ち、アンコウ骨が体の過半を取りまわし、ウロコなく粘液でおおわれ、イボのような突起があり、泥カッ色に淡カッ色のハン点があるところは、陸上をはいまわるガマにホウフツとしている怪物。怪物であっても、その性生活を見るとはなはだシャレている。生物学界の長老東大の岡田要理博の研究によると、深海にすむリノヒリネ・アルジレスカと呼ぶアンコウの一種の雄は、雌に比べるとそのからだの大きさが十分の一もない。