岡本 かの子

扉の彼方へ

結婚式の夜、茶の間で良人は私が堅くなってやっと焙れてあげた番茶をおいしそうに一口飲んでから、茶碗を膝に置いて云いました。

「これから、あなたとは永らく一つ家の棟の下に住んで貰わなければならん。遠慮はなるべく早く切り上げるようになさるがいい」

私は良人にこう云われると、持ち前の子供らしさが出てつい小さな欠伸を一つ出して仕舞いました。良人はそれを見るとやや嗄れたような中年男の声に、いたわりの甘味をふくめて、「ははあ」と軽く笑って云うのでした。

「一日中人中で式や挨拶やで嘸窮屈疲れがしたでしょう。今夜はゆっくり寝みなさるがいい。廻り椽の角の日本座敷、あすこはこの先ともずっとあなたの部屋になるところだから、どうにでも気儘にして寛いで下さい」

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