岡本 かの子
美少年
「とく子、お地蔵さまの縁日へ連れてってやろう。早く支度をしな」
美少年が古い乾き切った物干台の上で手を振った。わたしはその声を心待ちに待っていたのではあるが、そう思い取られるのも口惜しいから病室の窓から鼻から上を顔半分のぞかしたまま、ちょっと首をかしげてみせた。なんだかよく聴き取れなかったというしぐさ。すると美少年は案の定、わたしの懸念していた例の暴言癖を出した。
「なんだ、聴えてるくせに、愚図々々してると○ましちまうぞ」
そら来たなとおもって、わたしは耳の附根まで赭くしてすっくと立上り、このうえ、彼に口を利かせないよう急き込んで怒鳴った。