神田 孝平

国楽を振興すべきの説

方今我邦、改正・振興すべきものはなはだ多し。音楽・歌謡・戯劇のごときもその一なり。このこと、急務にあらざるに似たりといえども、にわかに弁ずべからざるものなれば、早く手を下さざれば、その全成を期しがたし。

けだし音律の拙き、いまだ我邦より、はなはだしきはあらず。古代、唐楽を伝うといえども、わずかにその譜に止まり、その楽章を伝えず。恐くは語音通ぜず、意義感ぜざるをもって、伝うといえども、すみやかに亡びしならん。

その後白拍子、猿楽などあり。不全の楽にはあれど、邦人の作るところなるをもって人心に適するは、はるかに唐楽に優れりとす。

慶元以還、民間俗楽種々起り、楽器もまた増加し、古昔に比すればいっそう進みたりというべし。しかれども、おおむね卑俚猥褻にして、士君子の玩に適せず。これをもって方今士君子、唐楽・猿楽にては面白からず、俗楽は卑俚に堪えずとして、ほとんど楽の一事を放擲するに至る。これまた惜むべきなり。

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