泉 鏡花・泉 鏡太郎
人参
京師の張廣號は、人參の大問屋で、聞えた老鋪。銀座で一番、と云ふづツしりしたものである。
一日の事で、十八九の一人の少年、馬に打乘り、荷鞍に着けた皮袋に、銀貨をざく/\と鳴して來て、店頭へ翻然と降り、さて人參を買はうと云ふ。
馬に銀袋を積んで來たくらゐ、人參の價値は思ふべしである。が、一寸素人には相場が分らぬ。ひそかに心覺に因ると、我朝にても以前から、孝行な娘が苦界に沈んで、浮川竹の流の身と成るのは、大概人參。で、高尾、薄雲、芳野など云ふ絶世の美人の身代金、即ち人參一兩の値は、名高い遊女一人に相當するのであるから、蓋し容易なわけのものではない。
何と! 處で其の少年は、人參百兩を買はうと云ふ。果せる哉、銀貨を馬に積んで居るから、金慣れた旦那、物に動ぜぬ番頭、生意氣盛の小僧どもまで、ホツと云つて目を驚かして、天から降つて來たやうに、低頭平身して、