泉 鏡花・泉 鏡太郎
火の用心の事
紅葉先生在世のころ、名古屋に金色夜叉夫人といふ、若い奇麗な夫人があつた。申すまでもなく、最大なる愛讀者で、宮さん、貫一でなければ夜も明けない。
――鬘ならではと見ゆるまでに結做したる圓髷の漆の如きに、珊瑚の六分玉の後插を點じたれば、更に白襟の冷※(「艷のへん+盍」、第4水準2-88-94)、物の類ふべき無く――
とあれば、鬘ならではと見ゆるまで、圓髷を結なして、六分玉の珊瑚に、冷※(「艷のへん+盍」、第4水準2-88-94)なる白襟の好み。
――貴族鼠の※(「糸+芻」、第4水準2-84-49)高縮緬の五紋なる單衣を曳きて、帶は海松地に裝束切模の色紙散の七絲……淡紅色紋絽の長襦袢――