泉 鏡花・泉 鏡太郎
間引菜
わびしさ……侘しいと言ふは、寂しさも通越し、心細さもあきらめ氣味の、げつそりと身にしむ思の、大方、かうした時の事であらう。
――まだ、四谷見つけの二夜の露宿から歸つたばかり……三日の午後の大雨に、骨までぐしよ濡れに成つて、やがて着かへた後も尚ほ冷々と濕つぽい、しよぼけた身體を、ぐつたりと横にして、言合はせたやうに、一張差置いた、眞の細い、乏しい提灯に、頭と顏をひしと押着けた處は、人間唯髯のないだけで、秋の蟲と餘りかはりない。
ひとへに寄縋る、薄暗い、消えさうに、ちよろ/\またゝく……燈と言つては此一點で、二階も下階も臺所も内中は眞暗である。
すくなくも、電燈が點くやうに成ると、人間は横着で、どうしてあんなだつたらうと思ふ、が其はまつたく暗かつた。――實際、東京はその一時、全都が火の消えるとともに、此の世から消えたのであつた。