泉 鏡花・泉 鏡太郎

露宿

二日の眞夜中――せめて、たゞ夜の明くるばかりをと、一時千秋の思で待つ――三日の午前三時、半ばならんとする時であつた。……

殆ど、五分置き六分置きに搖返す地震を恐れ、また火を避け、はかなく燒出された人々などが、おもひおもひに、急難、危厄を逃げのびた、四谷見附そと、新公園の内外、幾千萬の群集は、皆苦き睡眠に落ちた。……殘らず眠つたと言つても可い。荷と荷を合せ、ござ、筵を鄰して、外濠を隔てた空の凄じい炎の影に、目の及ぶあたりの人々は、老も若きも、算を亂して、ころ/\と成つて、そして萎たやうに皆倒れて居た。

――言ふまでの事ではあるまい。昨日……大正十二年九月一日午前十一時五十八分に起つた大地震このかた、誰も一睡もしたものはないのであるから。

麹町、番町の火事は、私たち鄰家二三軒が、皆跣足で逃出して、此の片側の平家の屋根から瓦が土煙を揚げて崩るゝ向側を駈拔けて、いくらか危險の少なさうな、四角を曲つた、一方が廣庭を圍んだ黒板塀で、向側が平家の押潰れても、一二尺の距離はあらう、其の黒塀に眞俯向けに取り縋つた。……手のまだ離れない中に、さしわたし一町とは離れない中六番町から黒煙を揚げたのがはじまりである。――同時に、警鐘を亂打した。が、恁くまでの激震に、四谷見附の、高い、あの、火の見の頂邊に活きて人があらうとは思はれない。私たちは、雲の底で、天が摺半鐘を打つ、と思つて戰慄した。――「水が出ない、水道が留まつた」と言ふ聲が、其處に一團に成つて、足と地とともに震へる私たちの耳を貫いた。息つぎに水を求めたが、火の注意に水道の如何を試みた誰かが、早速に警告したのであらう。夢中で誰とも覺えて居ない。其

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