泉 鏡花・泉 鏡太郎

熱海の春

拜啓

三十日夜、相州酒匂松濤園に一泊、間近に富士を望み松原に寄する夕波の趣佳し。

年の瀬や鷄の聲波の音三十一日、小田原見物、遊女屋軒を並べて賑なり。蒲燒屋を覗き外郎を購ひなどしてぼんやり通る。風采極めて北八に似たり。萬年町といふに名代の藤棚を見、小田原の城を見る。二宮尊徳翁を祭れる報徳神社に詣づ。木の鳥居に階子して輪飾をかくる状など、いたく神寂びたり。

天利にて、晝食、此の料理屋の角にて小杉天外氏に逢ふ。それより函嶺に赴く途中、電鐵の線路に踏み迷ひ危い橋を渡ることなどあり、午後四時半塔の澤着。

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