泉 鏡花・泉 鏡太郎

大阪まで

一

これは喜多八の旅の覺書である――

今年三月の半ばより、東京市中穩かならず、天然痘流行につき、其方此方から注意をされて、身體髮膚これを父母にうけたり敢て損ひ毀らざるを、と其の父母は扨て在さねども、……生命は惜しし、痘痕は恐し、臆病未練の孝行息子。

三月のはじめ、御近所のお醫師に參つて、つゝましく、しをらしく、但し餘り見榮のせぬ男の二の腕をあらはにして、神妙に種痘を濟ませ、

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