横光 利一

上海

序

この作品は私の最初の長篇である。私はそのころ、今とは違って、先ず外界を視ることに精神を集中しなければならぬと思っていたので、この作品も、その企画の最終に現れたものであるから、人物よりもむしろ、自然を含む外界の運動体としての海港となって、上海が現れてしまった。昭和七年に私はこの作を改造社から出したが、今見ると、最も力を尽した作品であるので、そのままにしておくには捨て切れぬ愛着を感じ、全篇を改竄することにした。幸い書物展望社の好意により、再び纏めることの出来たのを悦ばしく思う。この書をもって上海の決定版としたい。

横光利一

〔昭和十年〕[#改丁]

青空文庫の作品カード