アルチバシェッフ ミハイル・ペトローヴィチ
罪人
ずっと早く、まだ外が薄明るくもならないうちに、内じゅうが起きて明りを附けた。窓の外は、まだ青い夜の霧が立ち籠めている。その霧に、そろそろ近くなって来る朝の灰色の光が雑って来る。寒い。体じゅうが微かに顫える。目がいらいらする。無理に早く起された人の常として、ひどい不幸を抱いているような感じがする。
食堂では珈琲を煮ている。トンミイ、フレンチ君が、糊の附いた襟が指に障るので顫えながら、嵌まりにくいシャツの扣鈕を嵌めていると、あっちの方から、鈍い心配気な人声と、ちゃらちゃらという食器の触れ合う音とが聞える。
「あなた、珈琲が出来ました。もう五時です。」こう云うのはフレンチの奥さんである。若い女の声がなんだか異様に聞えるのである。
フレンチは水落を圧されるような心持がする。それで息遣がせつなくなって、神経が刺戟せられる。