小川 未明

眠い町

一

この少年は、名を知られなかった。私は仮にケーと名づけておきます。

ケーがこの世界を旅行したことがありました。ある日、彼は不思議な町にきました。この町は「眠い町」という名がついておりました。見ると、なんとなく活気がない。また音ひとつ聞こえてこない寂然とした町であります。また建物といっては、いずれも古びていて、壊れたところも修繕するではなく、烟ひとつ上がっているのが見えません。それは工場などがひとつもないからでありました。

町はだらだらとして、平地の上に横たわっているばかりであります。しかるに、どうしてこの町を「眠い町」というかといいますと、だれでもこの町を通ったものは、不思議なことには、しぜんと体が疲れてきて眠くなるからでありました。それで日に幾人となくこの町を通る旅人が、みなこの町にきかかると、急に体に疲れを覚えて眠くなりますので、町はずれの木かげの下や、もしくは町の中にある石の上に腰を下ろして、しばらく休もうといたしまするうちに、まるで深い深い穴の中にでも引き込まれるように眠くなって、つい知らず知らず眠ってしまいます。

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