小川 未明

犬と人と花

ある町はずれのさびしい寺に、和尚さまと一ぴきの大きな赤犬とが住んでいました。そのほかには、だれもいなかったのであります。

和尚さまは、毎日御堂にいってお経を上げられていました。昼も、夜も、あたりは火の消えたように寂然として静かでありました。犬もだいぶ年をとっていました。おとなしい、聞き分けのある犬で、和尚さまのいうことはなんでもわかりました。ただ、ものがいえないばかりでありました。

赤犬は、毎日、御堂の上がり口におとなしく腹ばいになって、和尚さまのあげるお経を熱心に聞いていたのであります。和尚さまは、どんな日でもお勤めを怠られたことはありません。赤犬も、お経のあげられる時分には、ちゃんときて、いつものごとく瞼を細くして、お経の声を聞いていました。

お寺の境内には、幾たびか春がきたり、また去りました。けれど、和尚さまと犬の生活には変わりがなかったのであります。

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