小川 未明
酒倉
上
甲と乙の二つの国は、隣り合っているところから、よく戦争をいたしました。
あるときの戦争に、甲の国は乙の国に破られて、乙の軍勢は、どしどし国境を越えて、甲の国に入ってきました。甲の大将は、とても正当の力では乙の軍勢を防ぐことができない、そうして降参しなければならないと思いましたから、これはなにか策略を巡らして、乙の兵隊や、大将どもを殺してしまわなければならぬと考えたのであります。
そこで、乙の軍勢が、甲のある小さな町を占領したときに、甲の大将は、すっかりその町の食物を焼き払って、ただ、酒と水ばかりを残しておきました。そうして、その酒と水には、ことごとく毒を入れておきました。大将は、敵がきっと腹を減らして、のどを渇かしてくるにちがいない。そのとき、食物がないから、きっと酒を飲み、水を飲むにちがいないと思ったのです。そうして、この町から逃げてゆきました。